バイタルサインとリスク管理
リスク管理をするなかでバイタルサインは必要不可欠なものですよね。
そもそもバイタルサインとは
「vital signs バイタルサイン」は医学・医療用語であり、「vital バイタル」は「生きている」、「sign サイン」は「兆候」という意味で、つまり人間が生きている状態であるということを示す兆候(=生命兆候)を意味する
南山堂 医学大辞典より
リハビリの対象者は高齢化を反映し、単一疾患とそれによる機能障害というケースは少なくなりつつあり、対象者の主たる診断名ばかりにこだわるのではなく、加齢に伴う生理的な変化を理解することと個々人の身体的・精神的状況を踏まえたリスク管理を行う必要があると思います。
なので今回は簡単にバイタルサインについて書きます。
リスクとは
リスクとは、未来において予想される危険である。そのため正しい情報を収集し、その情報をいかに解釈するかが重要な課題となる。表面化したその時点でのリスク、あるいは新たに起こると予測されるリスク等を把握し、それぞれに対応した適切な対策を講じることとなる。
リスクの考え方として、アセスメント(情報から問題点を理論的に分析すること)の基本的な考えかた
①どう認識するか?(リスクに気づく)
・気付くことが重要(いつもと比べてどうなのか?)
・レファレンス(識別するための知識)の蓄積
・臨床経験および上司や同僚、医学書などからの知識
②どう作業(判断)するか?(リスクを確認して、重みづけをする)
・異常の有無(異常がないのも重要な情報)
・個々の状態をしっかり捉え、全体像を把握
“木を見て森を見ずではいけない”
③どう共有するか?
・情報の言語化と共有化が必要
・共通言語の活用 主観的から客観的へ
④身体を動かすことを考慮しているか?(リスクの変化に気づき、生じないように管理する)
・安静時に問題がなければよいわけではない
・運動に伴う症状の変化を予測し、もしもの時に備える
4つのバイタルサイン
- 脈拍
- 呼吸状態
- 血圧
- 体温
脈拍
脈拍は,血液が動脈に駆出される際,血液の波動(圧波)が末梢まで伝わるもの
どこで測る?
主に橈骨動脈であるがその他に足背・総頸・大腿・膝窩動脈がある。一般的に15秒測り,4倍だが不整脈がある場合は1分間測定する。
脈拍の何を評価するか
数・リズム・大小・遅速・左右差を診る
~数~
安静時の脈拍数が60拍/分以下を除脈,100拍/分以上を頻脈と定義されている.
~リズム~
リズムが乱れたものは総称して不整脈といい.呼吸性不整脈・期外性収縮(欠滞)・絶対性不整脈がある
~大小~
触診している指を押し上げる高さを脈の大きさといい,脈圧(収縮期-拡張期血圧)を反映する。生理的に吸気時の小さめ,呼気時に大きめとなるが程度が極端になると大脈,小脈という
~遅速~
脈の立ち上がりと消失の速度が速い脈を速脈,遅い脈を遅脈という。脈の大小と遅速は密接に関係しており,速脈は大脈,遅脈は小脈となる。
特殊な脈拍
奇脈(クスマウル脈):吸気時に収縮期血圧が10mmHg以上低下し, 脈が小さくなること
原因;左室の拡張が制限される
交互脈:1心拍ごとに脈の大小が変化すること
原因:左室機能不全の徴候
呼吸状態
呼吸の何を評価するか?
⇒数と深さとリズム・酸素飽和度・吸気と呼気の比率・姿勢・聴診・打診
呼吸数は1分間の呼吸数をカウントする.
呼吸数と深さ
異常な呼吸リズム
酸素飽和度
血液中の赤血球のヘモグロビンは酸素と結合し,身体各所に酸素を供給する.この酸素化の割合を示すのが,動脈血酸素分圧で非観血的に動脈血の酸素飽和度を測定する装置で経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)がわかる.低酸素血症のリスク管理において不可欠。
パルスオキシメーターの誤差要因:異常ヘモグロビン血症(一酸化炭素,メトヘモグロビン)・色素・室内光・体動・循環不全・不整脈・静脈血の拍動
これも,ただ下がったのではなく,なぜ下がったのかを理解することも大事である.低酸素血症のみを考えると①吸入酸素分圧の低下PIO2②肺胞低換気③換気血流不均衡④シャント⑤拡散がある.
運動時の目安は90%>
血圧
血圧(blood pressure;BP)は簡便な血行動態の指標として頻用され、その個人の基準値、日々の変化を捉える必要がある。しかし、単に数値の確認にとどまることなく、その調節因子を理解し、生理学・薬理学な解釈を加える必要がある。
・収縮期血圧(systolic blood pressure;SBP):心室収縮による拍出が血管壁に及ぼす圧力
・拡張期血圧(diastolic blood pressure;DBP):心室が拡張し、大動脈が閉鎖した状態から血管壁に伝播している圧力
・脈圧=収縮期血圧-拡張期血圧:脈圧が収縮期血圧の25%以下では低心拍出が示唆される
・平均血圧≒(収縮期血圧ー拡張期血圧)/3+拡張期血圧:平均血圧が50mmHgでは脳血流(冠動脈血流・腎血流)が低下する
・二重積=収縮期血圧×脈拍数:心筋酸素消費量を示す指標
血圧測定の意義
日々の血圧監視は最も基本的な情報の1つ。正常血圧を覚えることが重要という訳ではなく、“いつもとの違い”をみていくことが大切である。
体位・投薬内容の変更・服薬時間・水分バランス・自律神経活動など、影響する因子は多岐に存在する。臨床経過や前日と比較して、まずはその時点の値の解釈を行うことが、安全な運動療法の実施に不可欠である。
SBP(変化が多い方が注意) 血圧運動して上がり、休むと下がる→反応よし!
低い…各種臓器の灌流障害をもたらす
高い…心負荷、血管負荷になる
DBP
高い…末梢血管抵抗が高い(血管が傷みやすい)
低い…冠血流量が低下する
血圧の規定因子
血圧=心拍出量(CO)×全末梢血管抵抗(血管床の面積・動脈壁の弾性・血管の粘性)
血圧測定と測定時の注意点
血圧測定
- 測定部位:上腕動脈
- 測定方法:聴診による間接測定
血圧測定時の注意点
- 測定する場所を心臓の高さと同じにする。
- 服の上から巻かない。
- 上着をまくりあげて上腕を締めすぎない。
- マンシェットは適度に巻く。
- 測定する側を決めておく。
- 何度も何度も圧を上げない。
- シャントやカテーテル側での測定は禁忌。
- 基本的に非麻痺側で測定する。
体温
- 一般的に体温は腋下温で36℃台、日内変動は1℃以内。年齢・季節・個人・測定部位の差がある。
- 発熱時は、炎症反応の上昇、呼吸器・尿路・消化器・カテーテルラインの感染症や脱水を疑う。
- 発熱により、呼吸数の増加・頻脈傾向・血圧変動・脱水など影響を及ぼすため合わせて評価する。
※体温が1℃上昇すると、通常脈拍が10拍/分増加すると言われている
その他
印象を大事にする(昨日と比べてどうか等?)
問診
・話しかけてそれに対する反応を見る:意識レベル…脳への血流供給が充分か?リハに取り組むだけの予備力があるか疲労・ストレス・イライラ・無気力・積極性etc…
・いつもとの違いを聞く:ここ数日の体調の変化
睡眠状況(不眠、夜間覚醒、早朝頭痛、環境変化etc…)
排泄状況(尿量、便秘、下痢etc…) 下痢-脱水-不整脈・血栓…
食事状況(食欲、むせこみ、吐き気etc…)
服薬状況(飲み忘れ、薬の変更、副作用etc…)
・リハによる体調への影響:過剰負荷(オーバーワーク)になっていないか
過負荷による心不全の悪化(夕方や夜のバイタル注意)
視診
・顔色や表情がさえない(脳や末梢組織への血液供給が充分でない?抑うつの傾向?)
・眼の下にクマがある(不眠?)
・顔色が違う(唇の色が悪い→呼吸状態の悪化・チアノーゼ、黄色っぽい→肝機能低下?、顔面紅潮→血圧が高い?自律神経失調?発熱?)
・呼吸が荒い、呼吸パターンが過度に胸式(心不全や呼吸不全の悪化?)
・浮腫みがある(腎血流が減少?水・塩分が体内に貯留?)
・痣や傷がある
触診
・手足がひどく冷たい、冷や汗(末梢組織への血液供給が充分でない?交感神経が過度に緊張している?)
・ひどく乾燥している(脱水?皮膚炎?) 手の甲つまんでそのままの形が脱水サイン 口渇も
・四肢末梢に浮腫みがある(心不全?栄養障害?静脈機能低下?水分過多?長い間足を下げていた?)浮腫みは脛骨の下1/3下腿前面で測る
・腫脹がある(局所の急性炎症?打撲?)
まとめ
- バイタルサインは基本的な生命徴候の指標であるがゆえに、単一の指標のみで判断できるものではない。臨床で確認すべき兆候は多くあり、まずは見逃さないように、疑問をもって視診・触診・聴診・問診を行う。
- 些細なことであっても違和感に対しては、現在の状態と所見とを結び付けるべく仮説をたて、得られた情報を統合的に関連付け解釈し、検証と対処を行わなければならない。
- 機器に頼る前に、見て・触って・聞いて感じる いつもと何が違うのか?
- 得られた情報から重篤性・緊急性を判断する
リスク管理に慎重になり、負荷をかけ過ぎないと意味がなくなってしまうが重篤性・緊急性は間違ってもいいのでなるべく早く周りに聞くことが大事です。