認知症の初期症状の特徴

2019年7月7日

認知症もさまざまな病態があるなかで初期症状から考えていく

各種認知症の概念

前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)

  Pick病を原型として、主として初老期に発症し、前頭葉と側頭葉を中心とする神経細胞の変性・脱落により、著名な行動異常、精神症状、言語障害などを特徴とする進行性の非Alzheimer病であり、経過中に行動障害や認知機能障害以外にも、パーキンソンニズムや運動ニューロン症状をはじめとする種々の程度の運動障害を認めうる。

Alzheimer型認知症

 病理学的に神経原線維変化(tauopathy)とアミロイド(Aβ amyloidosis;大脳皮質、脳血管)の2つの変化を特徴とするAlzheimer病によって大脳皮質、海馬、前脳底部で神経細胞死、シナプス減少、アセチルコリン低下が起こり、認知症を発症した段階である。主要症状は緩徐進行性の出来事記憶 episodic memory 障害に始まる記憶と学習の障害が典型的で、失語、遂行機能障害、視空間機能障害と人格変化などの社会的認知期の障害に進展する。後頭部大脳皮質萎縮症 posterior cortical atrophy、ロゴペニック型失語 logopenic aphasia、前頭葉型 frontal variant などの視覚構成機能や失語、前頭葉機能障害などで発症する非典型例もみられる

Lewy小体認知症

 1976年以降、小坂が大脳皮質に広範なLewy小体の出現と進行性認知症を特徴とする一連の症例を報告し、びまん性Lewy小体病を提唱した。認知症疾患の20%前後とされ、Alzheimer型認知症に次いで多い変性性認知症疾患である。DLBおよび認知症を伴うPakinson病Pakinson`s disease with dementia(PDD)と診断された割合は4.3%である。Lewy小体病 Lewy body disease(LBD)はLewy小体の存在を特徴とする病態のすべてを包含する疾患概念である。LBDには、Pakinson病、PDD、自律神経症状で発症する純粋自律神経不全症 pure autonomic failure (PAF)なども含まれる。また、Lewy小体は、病理学的検討により、中枢神経系以外、心臓などの末梢交感神経節や消化管などの内臓自律神経系での存在が報告され、全身性疾患としての理解が広まっている。

 病初期には記憶障害が目立たない場合があり、記憶以外の認知機能(注意、遂行機能、視空間認知など)の障害や、レム期睡眠行動異常症、パーキンソニズム、自律神経症状、嗅覚障害、うつ症状などの生有無に留意することが早期診断のポイントとなる。 

嗜銀顆粒性認知症(argyrophilic grain disease;AGD)

 脳内の嗜銀性顆粒状構造物を病理学的特徴とする変性疾患である。当初、認知症者の部検脳で報告されたため、嗜銀顆粒性認知症とも呼ばれるが、認知症を呈さない例もあることから、AGDと称されることが一般的である。高齢者におけるAGDの頻度は約5~9%と推定され、決してまれな疾患ではない。また、AGDはAlzheimer病やLewy小体型認知症など他の変性疾患に合併することが知られている。特に進行性核上性麻痺では19%、大脳皮質基底核変性症では41%と、高頻度の合併が報告されている。大脳皮質基底核変性症においては嗜銀顆粒が100%に認められることを報告している。

原発性進行性失語症

 変性性認知症のうち、失語症で初発し、経過を通じて失語症が前景に立つ一群は原発性進行性失語と呼ばれる。①非流暢性/失文法型、②意味型、③ロゴペニック型に分けられるが、いずれにも含まれない例もある。臨床的分類は、言語・意味記憶に関する評価および病巣分布をもとに行う。

大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD)

 病理学的には前頭頭頂葉に強い非対称性の大脳皮質萎縮を示し、基底核と黒質の変性を伴い、組織学的には神経細胞およびグリア細胞内に異常リン酸化タウが蓄積する。星状膠細胞斑 astrocytic plaqueが特徴的な所見で、進行性核上性麻痺progressive supranuclear palsy (PSP)と同様に4-repeat tauopathy(4RT)に分類される。

 典型的な臨床像は、進行性かつ非対称性の失行をはじめとする大脳皮質徴候と筋強剛をはじめとする錐体外路徴候を中核とし、現在は大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome;CBS)とよばれている。認知機能障害がしばしば出現し、遂行機能障害、脱抑制などの行動・人格変化、視空間障害、非流暢性失語がみられる。他疾患との鑑別に有用な検査法は確立されていない。

 

認知症で認められる主な認知機能障害

 疾患ごとの機能低下部位を反映し、複数の認知機能に障害が認められる。認知症で障害される主な認知機能としては、注意、遂行(実行)機能、記憶、言語、視空間認知、行為、社会的認知などがあげられる。

認知機能 症状名   初期から発現しやすい認知症
全般性注意 全般性注意障害 必要な作業に向けて、それを維持し、適宜選択、配分することができない。いろいろな作業でミスが増える。ぼんやりして反応が遅い 各種 認知症
遂行機能 遂行機能障害 物事を段取りよく進められない。 前頭側頭葉変性症ほか
記憶 健忘

前向性健忘:発症後に起きた新たなことを覚えられない

逆向性健忘:発症前のことを思い出せない

Alzheimer型認知症

Lewy小体認知症

嗜銀顆粒性認知症

言語

失語

 

失書

発話、理解、呼称、復唱、読み、書きの障害

 

書字の障害、文字想起困難や書き間違い

原発性進行性失語症(前頭側頭葉変性症、Alzheimer型認知症)

 

各種 認知症

計算 失算 筆算、暗算ができない 各種 認知症
視空間認知

構成障害

地誌的失見当識

錯視、幻視

図の模写、手指の形の模倣などができない

よく知っている場所で道に迷う

無意味な模様などを人や虫などに見間違える。実際はないものが見える

Alzheimer型認知症Lewy小体認知症

Alzheimer型認知症

Lewy小体認知症

行為 失行

肢節運動失行:細かい動きが拙劣で円滑な動きができない

観念運動性失行:バイバイなどのジェスチャーができない。

観念性失行:使い慣れた道具をうまく使えない

大脳皮質基底核変性症
社会的認知 脱抑制など 相手や周囲の状況を認識し、それに適した行動がとれない。 前頭側頭葉変性症

※原因疾患によらず進行とともに種々の認知機能障害が出現するので、初期に各認知機能障害が目立ちやすい認知症をあげた

 

 神経診察の一環として、神経心理学的診察を行うことで、特徴的な認知機能障害を捉えることができる。

 健忘・視空間認知(構成障害・地誌的失見当識):Alzheime型認知症

 健忘・視空間認知(構成障害・錯視、幻視):Lewy小体型認知症

 遂行機能・失語・社会的認知(脱抑制):前頭側頭葉変性症

 失行:大脳皮質基底核変性症

 初期に出やすい認知機能障害ですが、すべてに当てはまるわけではないのでひとつの考えとして頭にいれておくといいのかと思いました。

 認知症疾患 診療ガイドライン2017 監修 日本神経学会