関節可動域のエンドフィールと制限因子

2021年8月21日

 関節可動域(Range of Motion:以下ROM)は臨床的に良く測定する項目です。ただ、学生の時よりも目視での判断になることが多い気はします。

 今回はROMのエンドフィール(end feel)について簡単にまとめてみます。

ROMの制限因子

 ROMの制限因子はおおきくわけると8種類に分類されます。

制限因子エンドフィールの感触
①痛み無抵抗性
②皮膚の癒着や伸張性低下軟部組織伸張性
③関節包の癒着や短縮軟部組織伸張性(急に硬くなる)
④筋腱の癒着や短縮軟部組織伸張性(徐々に増加)
⑤筋緊張増加筋スパズム性
⑥関節内運動の障害多様
⑦腫脹や浮腫軟部組織接触性・伸張性
⑧骨の衝突骨性
①痛み

 疼痛に伴う防御性収縮などによってROMの制限が生じる。疼痛の軽減や消失すると即時的にROMが拡大する。エンドフィールは無抵抗性のこともあるが、ほとんどが防御性収縮などを生じているため筋スパズム性のエンドフィールも同様にあることが多い。炎症を伴う急性期ではROM時に特に痛みの種類や程度、部位を評価して急性期を脱した後に自動および他動のROMを測定を行う

 例:術直後や骨折などの急性期、慢性疼痛を伴う疾患

②皮膚の癒着や伸張性低下

 外傷創や術創部、熱傷などによる皮膚の伸張性低下が制限因子となる。軟部組織伸張性のエンドフィールで創傷部周囲に多く見受けられる。徒手的に皮膚を伸張方向とは逆に短縮させながらROMを行うと即時的にROMが拡大する。創傷部以外でも不動でも生じる。皮膚の皮下組織における線維化の発生・進行が関与することが言われており、不動の場合や不良姿勢で伸張刺激が少ない部位も皮膚による制限の可能性も考えられる。

 例:創傷部周囲、不良姿勢(円背などによる前面の皮膚)、不動

③関節包の癒着や短縮

 安静固定や不動によって生じた関節包の癒着や短縮の場合、エンドフィールは軟部組織伸張性だが、最終域で急に抵抗を感じる。筋腱にようる制限因子と混在しやすいが、収縮やダイレクトマッサージ、ストレッチによる即時的なROMの改善を認めない場合は関節包による制限因子の影響が大きい。

 例:疼痛や安静により数週間以上の不動の場合や損傷後

④筋腱の癒着や短縮

 関節疾患に伴う炎症や筋の機能障害によって生じる。軟部組織伸張性のエンドフィールで、徐々に抵抗が大きくなる。筋肉の場合は筋短縮テスト(Tomas testなど)をして確かめることも必要

⑤筋緊張増加

 持続的な筋緊張の亢進で生じる。エンドフィールは筋ズパズム(筋攣縮)性となることが多い。

 筋短縮と筋スパズム(筋攣縮)の違い

 

筋攣縮

筋短縮

圧痛

+

±

伸張位

緊張が増強

緊張が増強

短縮位

緊張が増強

緊張は低い

筋力低下

±

等尺性収縮時の疼痛

 鑑別するときにこの特徴を頭に入れて置くと短縮なのか、攣縮なのか鑑別しやすい

 二関節筋や共同な筋との鑑別も大事です。

⑥関節内運動の障害

 関節の遊びが減少した状態で、関節包内の短縮に起因することが多い。エンドフィールのみでは鑑別は難しい

⑦腫脹や浮腫

 外傷や侵襲に伴う腫脹や浮腫による生じる。軟部組織接触性のエンドフィールとなる。

 腫脹や浮腫が関節内にあると、関節原性筋抑制と言われる神経由来の筋力低下があり自動ROMではそちらのほうが影響で制限がでる場合もある。変形性膝関節症患者では73.8%において過剰な関節内水腫が存在すると報告されている。

 例:人工関節膝関節置換術後

⑧骨の衝突

 骨と骨の接触により生じる。骨性のエンドフィールであり、ストレッチなどの徒手療法などの対象にはならないがその他のROMの制限因子との鑑別のために確認は必要

 例:変形性関節症、骨折後保存による骨変形

制限因子のラットでの責任病巣の同定に関する報告

 皮膚,骨格筋,関節包,靱帯などの関節周囲軟部組織の中でも骨格筋と関節包は関節運動の生理的制限として寄与が高いことがあきらかとなってきてます。

 ラットの実験では人為的に不動化した場合、膝は2週間後、足部は4週間後までは骨格筋が拘縮の責任病巣の中心であることは明らかになっています。また、同実験でも ROM 制限の約 1 割は皮膚の変化に由来すると報告されてます。ただし、靱帯に関しては,不動に曝すことで力学的に脆弱になることから,責任病巣としての関与については否定的です。

つまり、骨格筋由来の制限が圧倒的に多いと言うことになります。そのため、徒手やストレッチ、物理療法などの治療により改善する可能性が高いということですね。

ROM制限に対する治療

 関節周囲軟部組織の器質的変化による制限が多いことは上でいいましたので主には骨格筋に対する治療が大事になってくると思います。

  • ストレッチ
  • 温熱療法
  • 超音波療法    など

制限が無抵抗性の場合はまずは炎症に対して治療や安楽肢位の指導

制限が筋スパズム性の場合は筋機能の改善(収縮弛緩の繰り返しなど)

制限が筋スパズム性ではない場合は筋の伸張性の改善、筋の伸張性は保持されている場合は関節包のストレッチや関節包内運動の誘導

しかし、まずは不動による拘縮を作らないことが大事になります。そのために、ギプスなどの不動な時期から筋ポンプ作用を使用した反復運動、徒手的なストレッチ、電気刺激による筋収縮、炎症が収まっていれば温熱療法を行うことが望ましい。拘縮までに至ってしまうとは線維化の発生が関与しており,治療ターゲットとなるのはコラーゲンとなるため即時的に改善は難しい。しかし、上記の治療を頻回にストレッチや温熱療法,超音波療法をすることで改善する可能性はある。また、筋弛緩剤や神経ブロック,ボツリヌス毒素の筋注などを行った後にストレッチなどを複合的に行うことで拘縮の改善が見込められます。

 

 

骨格筋の影響が大きい可能性が大きいですが、2関節筋なのか単関節筋なのかどの筋肉か同定することが大事になりますね。筋肉の起始停止だけでなく、作用などから同定しなくてはなりません。わたしも完全にはできていないので日々勉強中です。

 

 

参考文献・図書

運動療法学ー障害別アプローチの理論と実際

肩関節拘縮の評価と運動療法

PTジャーナル Vol.55 No2 FEB.2021

 

沖田 実:関節可動域制限の発生メカニズムとその治療戦略,理学療法学 第 41 巻第 8 号 523 ~ 530 頁(2014)

理学療法学 第 41 巻第 8 号 523 ~ 530 頁