日本の認知症の有病率と認知症と似ている病態

2019年8月6日

 

日本の認知症の有病率

日本は超高齢化社会に突入し社会問題となっており加齢は認知症のリスク要因のひとつと言われています。2012年時点での高齢認知症者は462万人と推計され、有病率は約15%と報告されており、2025年には675万人、糖尿病の頻度が20%上昇すると認知症者数は 730 万人と推定されておりこれからも増加の一途をたどる。日本では認知症疾患の頻度はAlzheimer 型認知症(Alzheimer’s disease;AD)が 67.6%で最多であり、将来推計では血管性認知症やその他の認知症に比べ ADが顕著に増加することが報告されています。これは日本の推計からだしたものでこれから必ず増えると言われています。また、糖尿病を罹患すると認知症の発症リスクがあがるためより増加すると言われています。

Ikejima,et al :Psychogeriatrics 2012

厚生労働科学研究費補助金 (認知症対策総合研究事業) 総合研究報告書「都市部における認知 症有病率と認知症 の生活機能障害への対応」平成23年度~ 平成 24年度総合研究報告書.

「日本における認知症の高齢者人口の 将来推計に関する研究」平成26年度 総括・分担研究報告書

認知症や認知症様の症状がでる主な疾患や病態

認知症といっても様々な種類があります。また、認知症のような症状が出る病気もあるためいかに書いていきます。あくまで

①   中枢神経変性疾患

Alzheimer型認知症(AD)

前頭側頭型認知症

Lewy小体型認知症/Parkinson病

進行性核上性麻痺

大脳皮質基底核変性症

Huntington病

嗜銀顆粒性認知症

神経原線維変化型老年期認知症

その他

②   血管性認知症(VaD)

多発梗塞性認知症

戦略的な部位の単一病変によるVaD

小血管病変性認知症

低灌流性VaD

脳出血性VaD

慢性硬膜下血腫

その他

③   脳腫瘍

原発性脳腫瘍

転移性脳腫瘍

癌性髄膜症

④   正常圧水頭症

⑤   頭部外傷

⑥   無酸素性あるいは低酸素性脳症

⑦   神経感染症

急性ウイルス性脳炎(単純ヘルペス脳炎、日本脳炎など)

HIV感染症(AIDS)

亜急性硬化性全脳炎、亜急性風疹全脳炎

進行麻痺(神経梅毒)

急性化膿性髄膜炎

亜急性・慢性髄膜炎(結果う、真菌性)

脳膿瘍

脳寄生虫

その他

⑧   臓器不全及び関連疾患

腎不全、透析脳症

肝不全、門脈冠静脈シャント

慢性心不全

慢性呼吸不全

その他

 

⑨   内分泌機能異常症及び関連疾患

甲状腺機能低下症

下垂体機能低下症

副腎皮質機能低下症

副甲状腺機能亢進症または低下症

Cushing症候群

反復性低血糖

その他

⑩   欠乏性疾患、中毒性疾患、代謝性疾患

アルコール依存症

Marchiafava-Bignami病

一酸化炭素中毒

ビタミンB1欠乏症(Wernicke-Korsakoff症候群)

ビタミンB12欠乏性、ビタミンD欠乏症、葉酸欠乏症

ナイアシン欠乏症(ペラグラ)

薬物中毒

ⅰ)抗癌薬(5-FU、メトトレキサート、シタラビンなど)

ⅱ)向精神薬(ベンゾジアゼピン系抗うつ薬、抗精神病薬など)

ⅲ)抗菌薬

ⅳ)抗痙攣薬

金属中毒(水銀、マンガン、鉛など)

Wilson病

遅発性尿素サイクル酵素欠損症

その他

⑪    脱髄疾患などの自己免疫性疾患

多発性硬化症

急性散在性脳脊髄炎

Behcet病

Sjogren症候群

その他

⑫    蓄積病

遅発性スフィンゴリピド症

副腎白質ジストロフィー

脳腱黄色症

神経細胞内セロイドリポフスチン[沈着]症

糖尿病

その他

⑬   その他

ミトコンドリア脳筋症

進行性筋ジストロフィー

Fahr病

その他

みたことない疾患の病気もありますが認知症様症状がでる疾患はたくさんありますね。

 

認知症と似てるけど違う病態

①加齢に伴う生理的健忘

  生理的健忘 病的健忘(Alzheimer型認知症)
もの忘れの内容 一般的な知識など 自分の経験した出来事
もの忘れの範囲 体験の一部 体験した全体
進行 進行・悪化しない 進行していく
日常生活 支障なし 支障あり
自覚 あり なし(病識低下)
学習能力 維持されている 新しいことを覚えられない
日時の見当識 保たれている 障害されている
感情・意欲 保たれている 易怒性、意欲低下

 体験に対する 部分的な物忘れであり、進行しないか、進行が見られても緩やかであること、病態が保たれること、日時の見当識は保たれ、日常生活への支障をきたすことが少ない。

HDS-Rでは日時の見当識・数字の逆唱・3つの言葉の想起・5つの物品記銘などが差が出そうですかね。あとは病識の低下や信仰によって判断するべきなので1回の検査では難しいそう

②せん妄

  せん妄 Alzheimer型認知症
発症様式 急激(数時間~数日) 潜在性(数か月~数年)
経過と持続 動揺性、短時日 慢性進行性、長時間
初期症状 注意集中困難、意識障害 記憶障害
注意力 障害される 通常正常である
覚醒水準 動揺する 正常
誘因 多い 少ない

 せん妄は意識障害を伴う急性の精神症状で、注意の集中や維持が困難となる状態である。身体疾患や環境の変化、薬剤による影響などを誘因となることが多い。症状は変動し、持続する認知症とは異なるが、せん妄と認知症は合併してみられることが多い。

術後の患者などではよくみるせん妄ですね。経験上では2~3日ではっきりしてくる印象ですが、せん妄から認知機能も低下してくるかたもいるのが現状なような気がします。HDS-Rでは数字の逆唱・3つの言葉の遅延再生・5つの物品記銘などですかね。実際はせん妄にHDS-Rなどの簡易検査をしてもしょうがないかもしれませんが

③うつ病

  うつ病(偽性認知症) Alzheimer型認知症
発症様式 急性 緩徐で潜在性
経過と持続 比較的短期、動揺性 長期、進行性
自覚症状

存在する

(能力の低下を慨嘆する)

欠如することが多い

(能力の低下を隠す)

身体症状 摂食障害、睡眠障害など なし

 うつ病やうつ状態による偽性認知症は動作・思考緩慢や集中困難を生じ、記憶力の低下や判断の障害が起こり、自覚症状として記銘力障害を訴え、認知症と間違われることがある。通常、ADのように記憶や遂行機能の障害を永続することはなく、自己の機能障害を過大に評価することが多い。(認知症は病識の低下を反映して自己の機能障害を過少に評価する)。抗うつ薬に反応する点も鑑別のポイント

④精神遅滞

 18歳以前に発症した全般的知的機能障害で、適応機能の障害が共存する。必ずしも記憶障害を伴う必要はない。

⑤統合失調症

 多彩な認知機能障害をきたしうるが、認知症と異なり一般的に発症年齢が若く、認知症ほど重篤ではない

 認知症は高齢化に伴い、罹患数は年々増えています。けれどまだ特効薬などはでていないのが現状ですが環境などの調整や関わり方や接し方がすごく大事だと言われています。とくに関わり方によってリハビリの進みかたも大分変ってくる印象です。最近では軽度認知障害(MCI)の話題も多く、MCIから認知症へのコンバージョン(転化)は5~15%/年と言われており、逆にMCIから正常へのリバージョンは16~41%/年と言われていますが幅が広くて議論があるみたいです。

認知症疾患 診療ガイドライン2017