皮膚の構造

 皮膚について、昔考えたことを久しぶりに書いてみます。

皮膚の基本構造

 成人の皮膚の面積は約1.6㎡、皮下組織を除く皮膚そのものの厚さは部位によって異なりますが1.4~5mm、重さで評価すると皮膚のみで約3kgとなります。

脳(約1.4kg)や肝臓(約1.5kg)より重い、実は最大の臓器である

 皮膚は表皮とその下の真皮から構成されます。皮膚の表面には表皮があり、表皮の下には真皮があり密な線維性結合組織からなる。表皮と真皮は互いに強固に結合している

表皮の基本構造

  • 表皮の基底部には肌の色を決める

   ⇒メラノサイト

  • 外部からの侵入した異物に対して免疫応答のシステムを発動させる

   ⇒ランゲルハンス細胞

  • 触覚に関与していると考えられている

   ⇒メルケル細胞

 ・血管は真皮内で網状に分布し、表皮内には入っていない

・表皮では最深部でのみ細胞分裂が起き、その細胞が次第に形を平たくしながら表面に向かい、やがて自動的に死んでしまう。

 この死んだ細胞は、角層を形成し、やがて表面から垢となって剥がれ落ちる。

上皮細胞

 これは消化管の内側、気道の内側にも存在する。

皮膚の発生

人の場合、発生から3~8週間で外胚葉、中胚葉、内胚葉に分かれます。皮膚のなかでは表皮が最初から身体の表面を覆っている状態が続いています。つまり表皮は外胚葉由来となります。ちなみに真皮は中胚葉由来です

表皮=外胚葉

皮膚のバリア機能

  • 表皮のケラチノサイトが死んでできた角層が水を通さないバリア機能を担っています。角層はケラチノサイトが死ぬ前に小さな袋(細胞間脂質)ができ、この中身が押し出され隙間を埋めるためレンガの家のようになります。

これがバリア機能の要となっています

死んだケラチノサイトがなぜ腐らないかと言うと、角層は構成成分から弱酸性であり皮膚表面の物質が内部を酸性にしているためです。また、表皮ケラチノサイトには抗菌ペプチドと呼ばれる抗菌剤を作っている。

 この抗菌ペプチドとバリアが相補的な関係があり、角層バリアが壊れると抗菌ペプチドが多くなります。

乾癬の場合、皮膚の物理的なバリア機能が低下するが、この抗菌ペプチドが増えます

バリア機能の自律

 バリアが破壊されると回復過程では皮膚から蒸散する水分量をモニターしながらなされます。水を通さない膜で皮膚を覆うと回復システムが作動しなくなります。

 皮膚のバリア機能の維持は常にバリア機能の状態をモニターしながら調整する自動制御システムである。

乾燥はなぜ皮膚に悪いのか?

 乾燥にさらされると12~24時間以内に表皮細胞の増殖性が高くなり、表皮の中で、炎症を引き起こす物質の合成量が高くなる。また、表皮中のランゲルハンス細胞の密度、真皮で炎症や痒みの原因の細胞も増えてきます。

 つまり、乾燥は皮膚を外的な因子に対して敏感にしているといえる

皮膚のさまざまな役割

 皮膚は防御機能だけではなく、実は様々なセンサーになっています。

皮膚が痛みを感じる?

 皮膚への侵害受容器には機械的侵害受容器とポリモーダル受容器に分けられる。

機械的侵害受容器

強度な機械的刺激にのみ反応します。これは真皮にある有髄線維(Aδ)が作動したもの。表皮の基底膜を貫くまでシュワン細胞に包まれたままである。

ポリモーダル受容器

機械的刺激に加えて侵害性熱刺激、化学的刺激、皮膚への強い冷刺激に対して反応します。表皮最下層に伸びている無髄線維(C)が作動したもの

末梢神経での痛みの感受性分子

 ①TRPV1と呼ばれるたんぱく質

 ②P2X3というATP(アデノシン三リン酸)の受容体

  これらは脊髄後根節にも存在しており、現在も表皮最深部にあるこれらが作動するからだと考えられていました・・・・・・・

しかし表皮のケラチノサイトにも上記の感受性分子が発見されました。

 つまり皮膚表面に侵害刺激を受けると上記の感受性分子を活性化し表皮最深部にある神経末梢に伝わるということです。

皮膚が光を感じてる?

 生まれつき視神経の機能がない人でも外部の光りに応じて生理的変化が起きると報告があります。また、膝の裏側だけに光り照射してもサーカディアンリズムを調整できるとの発表もあります。網膜のロドプシンは光りの明暗を感じますが表皮にもロドプシンと同じものがあります。

つまり表皮も光りの明暗や色の識別をしていると考えられています

NOを合成する皮膚

 一酸化窒素(NO)は血管拡張作用や血小板凝集抑制作用など血栓症や止血と関わりの深い生理作用を持ち、心不全の人はNOの産生・放出が低下します。心筋梗塞や脳卒中など虚血性疾患のかたは大事なものであり、動脈の内膜から産生・放出されます。NOは運動や筋収縮やマッサージでも放出されます。しかし血管・神経もない培養された皮膚からも圧力によって産生されます。

マッサージにより表皮と血管が半分ずつNOを産生・放出しています。

皮膚の運動

 身体運動では、多くの部位で皮膚に皺が観察される。また、その皺は関節付近で大きくなる部位が存在し、同じ運動では一定の部位に皺が観察できることが多い。皺が恒常的に観察される部位では皺が深くなり、伸張しても皺の部位は明確に判断できうる。

皮膚運動の原則

1.皺ができると、さらに皺が深くなる運動は抑制される。伸張された皮膚の部位は、さらなる伸張方向への運動は抑制される。

2.伸張されている部位を弛緩すると伸張方向への運動が大きくなる。また、弛緩部位が伸張されると弛緩方向への運動が大きくなる。

3.皮膚の運動方向は関節の骨運動と連動し、骨どうしが近づく運動では皮膚は関節から離れる方向へ動き、骨が遠ざかる運動では関節に近づく。また、回旋運動では同方向に動く。

4.皮膚は浅筋膜層で筋との間に滑走がある。そのため、皮膚の緊張線を張力の強い方向へ誘導すると身体内部との中間位が変化し、運動に影響を及ぼす

5.身体運動では特定部位の皮膚が伸張あるいは弛緩する。伸張しにくい部位は特定の運動方向に影響を及ぼすが、その部位が伸張できると身体運動全体が大きくなる

参考・引用文献

傳田光洋:『賢い皮膚』筑摩書房

福井勉:『皮膚運動学』三輪書店

 
熊沢孝明監訳:『痛み学』名古屋大学出版会