生体侵襲と生体反応ってなに?
生体侵襲とは
生体は多様なシステムを駆使して体内環境を維持するようになっている。
この生体の恒常性(ホメオスタシス)を乱すような外部刺激が加わると、局所での刺激に対する反応だけでなく、生命を維持をするために全身的な生理反応が起こる.
➡ この外部刺激(侵害刺激)が、生体侵襲となる
手術・敗血症・熱傷・多発外傷・急性膵炎・虚血再灌流障害 Bacterial Translocationなど
手術による生体侵襲
・手術操作で生じた物理的な刺激
・手術に伴う精神的なストレス
・出血
・脱水
・疼痛
・麻酔などの薬剤などがある
生体侵襲での反応
生体侵襲を受けると以下の生体の防御反応が起こる.
①内分泌系
②神経系
③免疫系
④代謝系
SIRS(全身性炎症反応症候群)
SIRSは侵襲(細胞,組織を損傷する内因的および外因的刺激)の種類にかかわらず,サイトカインを中心とした免疫-炎症反応による非特異的な全身生体反応を把握するための臨床概念である。
以下の4項目のうち2項目以上を満たすときSIRSと診断する。臨床的で簡便であり迅速に診断が可能であるため,重症患者のスクリーニングとして広く浸透している。
ⅰ)体温 < 36℃or 38℃ ⅱ)脈拍 > 90/min ⅲ)呼吸数 >20/min (or PaCO2<32Torr)
ⅳ)白血球 >12000/mm³ or <4000/mm³ or 10%を超える幼若球出現
SIRSが重症化,遷延化することにより,各種のメディエータ・カスケード,好中球,凝固系などが活性化され臓器障害の原因となる。また,抗炎症性サイトカインによって引きおこされる代償性抗炎症反応症候群(compensated anti-inflammatory syndrome; CARS)や,SIRSとCARSが同時におこるMARS(mixed antagonistic response syndrome)なる概念も提唱されている(Crit Care Med 1996; 24: 1125-8)。CARSが遷延すると免疫抑制状態(immunoparalysis)に陥り,感染の遷延や新たな感染症を発症し臓器障害へ進展すると考えられている。
日本救急医学会 医学用語 解説集
簡単に言うと外傷,熱傷,膵炎,外科手術などで免疫・炎症反応がSIRS、この炎症反応を抑えようとして、逆に行き過ぎた抑制により免疫系の低下で易感染となるのがCARSですかね
①、②内分泌・神経系
バソプレシンの作用:水の再吸収の促進、体液量の増加と浸透圧の低下 大量では末梢血管を収縮し血圧を上昇
カテコールアミンの作用:副腎髄質から分泌されるホルモンで、交感神経が支配している臓器に作用して血圧を上昇させたり、肝臓でグリコーゲンの分解を促進して血糖を上昇させるなどの役割があります。
レニン‐アンギオテンシン‐アルドステロン系の活性化 :Na+、水の再吸収➡高血圧. K+、H+の排泄促進 ➡低K血症など
ナトリウムとカリウムのバランスで細胞内外の電位差が一定に守られる中、カルシウム濃度を変化させることで、筋肉に収縮と弛緩(元に戻す)を起こさせています。このため、ナトリウムとカリウムのバランスは、筋収縮を起こさせるカルシウム濃度変化にも影響を与えていて、カリウムは筋肉弛緩側に働く作用を持ちます。例えば、カリウムが過剰になると筋肉が収縮しにくい状態、いわゆる高カリウム血症や弛緩症や低血圧などの症状となります。一方、カリウムが欠乏すると、筋肉が収縮しやすくなるために、こむらがえり、心臓では不整脈やポンプとしての流量が弱くなったり、極端な場合は突然死、また、腸では蠕動運動が弱くなり便秘になるなど、いわゆる低カリウム血症の始まりとなります
①内分泌系 ホルモン作用
コルチゾールの作用 | 分泌過剰症状 | 分泌低下 |
代謝に及ぼす作用
・肝臓での糖新生を亢進 ・グリコーゲンの合成を促進 ・タンパク質の分解を促進 ・脂質代謝作用 |
耐糖能低下(二次性糖尿病)
筋委縮、赤色皮膚線条など 高脂血症、中心性肥満など |
低血糖 |
水・電解質に及ぼす作用
・Na貯留 ・K排泄の促進 |
高血圧、浮腫 | 低血圧
水利尿不全 |
免疫系
・免疫反応の抑制 ・抗炎症作用 |
易感染性 | |
骨代謝に及ぼす作用
・骨形成の抑制 |
骨粗鬆症、尿路結石 | |
精神・神経
・中枢神経の興奮促進 |
抑うつ、不安、不眠 | 易疲労感
食欲低下 |
③免疫系
④代謝系
代謝とは栄養素の同化(貯蔵、生体構成成分)もしくは異化(エネルギー産生)されること
侵襲下の代謝変化は、傷害期・異化期・同化期に分けられる.
侵襲時の代謝
糖代謝とタンパク・アミノ酸・脂肪の代謝
侵襲時エネルギー需要を満たすために最も使われるのがグルコースである。肝・骨格筋に貯蔵されているグリコーゲンを分解して供給するが足りないため肝臓から糖の生成(糖新生)が供給源となる。
骨格筋などのタンパクがアミノ酸に分解される(異化作用)。分解されたアミノ酸が肝臓における糖新生や急性相タンパク合成、エネルギーの基質、創傷治癒の材料となる。
脂質の合成は侵襲時に抑制され、内因性脂肪が脂肪酸とグリセロールへ分解される。脂肪酸は肝臓や骨格筋、心筋でエネルギー基質として利用。グリセロールはグルコースの合成の基質となる。脂肪を利用することで節約されたグルコースを創傷治癒や免疫系、中枢系に優先的に供給している。
侵襲時のリハビリ
術後のリハビリなど負荷量などまだどのくらいがいいかなど明確にはなっていない
異化作用が優先する時期は骨格筋の蛋白異化作用は白筋が優先的に分解される。無理な運動は異化作用を亢進させる可能性もある
➡異化作用を優先する時期は座位保持や姿勢保持などの赤筋優位のリハビリを開始していくのがいいのではないか。介入直後や介入次の日など経過をみていくことも大事なのかと思います。
参考文献
看護技術:生体侵襲がよくわかるVol56:2011、JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION 20(11): 2011、病気がみえるvol3、若林秀隆著:PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養