HFNC(NHF)の生理学的効果
近年、使用されることが増えたHFNCの生理学的効果についてまとめてみます。
HFNCって何の略?
名称として日本では最初に導入したFisher & Paykel Healthcare 株式会社のNasal High Flow™(ネーザルハイフロー)という商品名が使われることが多い印象です.文献をみてさまざまな表現がされています。酸素療法マニュアルでは「高流量鼻カニュラ(High flow nasal cannula; HFNC)は鼻腔内に高流量の酸素空気混合ガスを投与する方法で,HFNC を使う酸素療法を高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC oxygen therapy;HFNCOT)という。」と書かれており、海外でもCochraneのReviewでもHFNCと表現しているので最近はHFNCというのが主流だと思います。
ですが実際、わたしの施設ではNHF(ネーザルハイフロー)のほうが主流です
酸素療法マニュアル 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、日本呼吸器学会編集
酸素吸入(療法)の基礎
そもそも
酸素吸入法は低流量システム,高流量システム, リザーバシステム(低流量システムに分類する場合もある)に分類される。ここで低流量や高流量とは酸素流量の大小を意味していない!!
低流量システム:患者の1回換気量以下の酸素ガスを供給する方式。 不足分は鼻腔周囲の室内気を吸入することで補う。
高流量システム:患者に1回換気量以上の酸素ガスを供給する方式。 患者の呼吸パターンに関係なく設定した濃度の酸素を 吸入させることができる。
リザーバシステム:呼息相(呼気時)の酸素をリザーババッグ内に貯め,次の吸息相(吸気時)に貯まった酸素を吸い込む方式
低流量 | 高流量 | リザーバシステム |
①鼻カニュラ ②簡易酸素マスク ③オキシアーム ④経皮気管内カテーテル |
①ベンチュリマスク ②ネブライザー式酸素吸入装置 ③高流量ネブライザー式酸素吸入装置(ハイホーネブライザー®) ④高流量鼻カニュラ |
①リザーバ付マスク ②リザーバ付鼻カニュラ、ペンダント型リザーバ付鼻カニュラ |
高流量鼻カニュラ(High flow nasal cannula; HFNC)
総流量60L/minまで可能な高流量酸素投与システムでFiO2 21から100%まで安定して供給でき、相対湿度100%まで加湿して, 口径の大きな鼻カニュラから直接上気道内に投与する酸素療法
簡単に言うと人工呼吸器レベルの流量の酸素を加湿も最大限にして安定して鼻から投与できる酸素療法
【HFNCの主な生理学的効果】
①高濃度まで正確なFiO2設定:通常の鼻カニュラとは異なり,患者の一回換気量や呼吸数の影響をほとんど受けず,FiO2 100%の高濃度まで設定できる。
②解剖学的死腔の洗い出し(ウォッシュアウト):上下気道の死腔に溜まった呼気ガスを洗い出すことでCO₂の再 吸収を防ぎ,ガス交換,換気効率を上げる。
高流量の酸素を鼻腔へ流すため,鼻咽頭にたまった呼気が洗い流され,次の呼吸のときに鼻咽頭にたまった呼気を再吸入しない。成人患者では解剖学的死腔を約50ml 減らすことができる。40L/min以上では洗い出し効果に差はないと言われてます。このことは死腔換気率を減少(肺胞換気率を上昇)させ,肺の酸素化を改善する.その結果,患者のPaO2を改善させるだけでなく,運動耐容能を高め,息切れを軽減する。
解剖学的死腔とは本来ガス交換は肺胞で行われるので肺胞までの空気の通過経路となる口腔,鼻腔,咽喉頭腔,気管,気管支などはガス交換に関与しないので,これらの諸部分の空間容積(約150ml)を解剖学的死腔といいます。HFNCに関連する解剖学的死腔は鼻腔と咽頭になります。
呼気時に解剖学的死腔にCO2がたまり、たまったCO2を吸気時に再吸入している
高流量のO2を吹き流すことにより鼻腔と咽頭にたまったCO2を洗い出しCO2の再吸入を抑える
③上気道抵抗の軽減:吸気流速を上回る高流量で吸気努力に伴う鼻咽頭の虚脱を防ぐ.
鼻呼吸の吸気相では鼻咽頭は大気に比べて陰圧になり,空気は鼻孔から吸入されるようにして肺に入る。その際,鼻翼は大気から押されるため,鼻腔の容積は減少し抵抗は増大する。しかし,高流量鼻カニュラでは吸気相に酸素を高流量で鼻咽頭に流すため,鼻咽頭は陽圧になり膨らむため、鼻咽頭抵抗が減少し,呼吸仕事量も減少する.
口を閉じて,静かに鼻呼吸をすると吸気時に鼻翼が大気圧で内側に押され,鼻腔の抵抗を感じることができる.鼻から息を吸うときの抵抗が減るので努力的な呼吸が減少する
④PEEP効果と肺胞リクルートメント:持続的な高流量によって,呼気終末の陽圧が生じ,口を閉じた状態で35 L/分では 2.7cmH₂Oの気道内圧となる。これによって呼気終末の肺容量は増加し, 背側も含めた肺胞のリクルートメントを可能にする。
PEEP(Positive end expiratory pressure:呼気終末陽圧)とは呼気の終末に大気圧に開放せず、陽圧を保持するものです。陽圧をかけることにより肺胞の虚脱を防ぎ、酸素化能の改善を目的とする
口を閉じていないとPEEP効果も減少してしまうため、生理学的効果にあがっていますが実質PEEPはあまり期待しすぎないほうがいいと思います。PEEPをかけたいのであればNPPVや挿管が第一選択です。
⑤気道の粘液線毛クリアランスの維持:加温加湿によって乾燥を防ぎ、線毛機能を維持するため,分泌物の移動性を維持し、分泌物の除去、無気肺形成予防、呼吸器感染リスクの軽減などをもたらす。
気管支拡張症患者を対象に,体温に近い温度まで加温し,かつ十分加湿した空気を高流量で1 日3 時間,7 日間吸入させると,そうでない場合にくらべて,気道の粘液線毛機能が改善することが報告されているため高流量式鼻カニュラによる酸素療法でも同じことが期待される。
配管からは湿度約20%と言われており、高流量で鼻に送気すると痛み・鼻腔内損傷・粘膜線毛運動が弱まると言われています。普通の鼻カニュラでも3Ⅼ/min以上の場合加湿をするように「酸素マニュアル」には記載されている
上記②、③、④の効果は,いずれも呼吸仕事量の減少をもたらし,換気量増加や呼吸困難減少につながると言われています。
よくあるHFNCの生理学的効果について書きましたが、これだけみてると良いことだらけの酸素療法ですが、欠点もありますね。そこらへんはまた今度まとめてみようかと思います
引用・参考文献
酸素マニュアル
ネーザルハイフロー療法の適応と限界;日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2015年 第25巻 第1号 53- 57
高流量鼻カニュラ酸素療法 (ネーザルハイフロー);日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2016年 第26巻 第1号 21- 25
高流量鼻カニュラ酸素療法;日呼吸誌 3(6),2014
上記の文献はすべて日本語で無料です。